陶製まきびし 特設ページ

 4月13日NHK歴史探偵で放送された「陶製まきびし」に関するページです。放送では充分に伝わらなかった部分などもご紹介出来ればと思います。

粘土でまきびし?事前調査

「八王子粘土で野焼きが出来る方を探しています」とのご相談を受け、製作再現をするために、まずは出土した「まきびし」を八王子歴史資料館の学芸員さんらにお願いして見せて頂く事に。

 出土した「まきびし」はほとんどただの球体で、当初は鉄砲の弾か、手榴弾の中に入れる玉の様な物と思われていたとのお話し。赤っぽいのと黒っぽいのがある事、ちょっと覚えていて下さい。


 ごくわずかの個数だけ、球体ではなく、トゲ状の物が付けられた「まきびし」が出土しており、この子たちが「まきびし」である事の発見のキッカケとなった様です。

 番組では紹介されませんでしたが、上の左写真の左上側の2個、縦に貫通した穴が開いた物も2個ありました。これは細い鉄板を通して地面に刺した「まきびし」と推測されています。「地面や床に鉄板直接刺せばいいんじゃない?」って思いましたが、トゲ付きやこれらの「まきびし」は作った方の思い付きで出来た試作の域を出ない物だったのかもしれませんね。だって球に対して数が少なすぎる・・・


 再現に当たり必要な情報を出土品から聞き出します。散々野焼きした経験やペルーのインカ時代の土器片を博物館収蔵庫で拝見した体験がこういう時に生きます。実物を見る前までは『戦場やその周辺で兵士らが食事を作るために煮炊きする竈などで焼成したのだろう』と推測していましたが、割れた出土品から「これだけの厚さの作品の芯までシッカリと焼きが入っている事から、須恵器同様にそれなりの窯でしっかり焼かれた物だ」と分かります。またトゲの接着部分から、どういう手法で接着したかも推測出来ます。

制作


 ロケ撮影では「八王子粘土の精製方法」から撮りました(使われませんでしたが 苦笑)。当時の彼らは私よりは恵まれた粘土(不純物の少ない、精製をほとんど必要としない粘土)を掘れていた様ですが、私は道路工事や住宅建設前の造成工事で出た、そこそこ条件の悪い粘土しか掘れないケースが多いので…

 ちなみに粘土精製時に使うフルイも出土しているんです!

撮影時に使える八王子粘土で「まきびし」の制作を行ったのは、私や学芸員さん・NHKや制作会社のスタッフの方で、作陶方法を私から軽く説明を受け、皆で作りました。恐らく当時も忍者から「こういう形の物を陶器で作れ」と指示された陶工が、他の兵士や子供らに「こう作ってね」って指示して作ったのだと推測されています。全くの知識無しでいきなり八王子粘土で作ると、概ね失敗すると思っています。なぜならば八王子の粘土は現在の市販粘土に比べ、結構扱いが難しい粘土なんです。たかが球の玉であっても、未経験で作陶すると結構割れるんです。


 八王子城で実際に撒いて実験する撮影用にも300個以上作る必要があったので、残りは猫の手を借りつつ作陶。乾燥中にコロコロ転がって落として壊しやすい形なので、一番の核心は「どう壊さずに保管しながら乾かすか?」だったりして。

焼成


 学芸員さんご指導の元、鎌倉時代に使われていたであろう窯の形状を再現し、焼成開始。左の焚火で作った熾火(おきび)を右の窯の焚口に入れ、徐々に温度を上げていきます。急に温度があがると中の「まきびし」が爆発や割れたりするので、長年の野焼きの経験が試されます。素焼きよりちょっと高い須恵器と同等の温度1100℃目標で焼成しました。周辺で出土した須恵器に比べると「まきびし」は断面から若干低めの温度で焼かれた可能性はあると思っていますが・・・

 温度計は当時の人も持っていなかったので、炎の色だけで温度を判断しますが、絶対1100℃ぴったりに焼く必要がある訳では無いので、大雑把でも良いのですが、焼成慣れすると大体温度は色と感覚で分かります。焼成に掛かった時間は(2回焼成したのですが)5~7時間程度です。焼成を終わる間際に「まきびし」を1個取り出し、その場で割ってみて中の焼き具合が出土品と同じか確認して、焼成を終えています。


完成

 赤っぽいのと黒っぽいのは、焼成を終える際の窯の煙突に相当する部分をどう閉じるかとか、閉じる直前に焚口に薪をどれくらい残すかなどで調整可能なんです。

 販売をご希望の方は、メールにてお問合せ下さい。八王子粘土で当時と同じ焼成方法で再現した物と、今の市販粘土で形だけ再現した物がございます。

放送を見て補足


最初の「事前調査」でも記載した通り、出土した「まきびし」の大半はただの球体です。トゲがあったのはほんの何個かだけ。番組ではそこに触れていませんでした。球の「まきびし」を踏ませて転倒させる事が主たる目的だったと思われています。

 また、出土品をもう一度観察して頂きたいのですが、小さい球の「まきびし」は赤っぽく、大きい球の「まきびし」は黒っぽいんです。これ、焼成を終わる際に窯の閉じ方などで調整可能なのですが、意図的に色分けされていると推測出来ます。小さいのは屋内の床に置かれる事を想定して赤く仕上げ、大きめの物は外の石階段で転倒を誘うために使う事を想定して、見つかりにくい石畳に近い黒っぽい色にされたと考える学芸員さん達のご意見も紹介させて頂きます。

 また、放送では「素焼きのまきびし」として紹介されましたが、実際はそれより少し高めの須恵器の温度で焼成しております。八王子の当時の陶工たちは須恵器を焼く職人さんだったので、同じ様に焼いたと思っておりますが、釉薬を使わない焼き締め作品なので「素焼き」と誤解されやすい事は番組同様、多い様です。

(素焼き:7~900℃、須恵器:1100℃位)